【WEB展覧会】
芸大・茨大・筑波大卒業修了制作選抜展2020

茨城県内で美術を専攻した学生を対象に、大学や表現分野を超えた交流と発表の場を提供し、若きアーティストを支援することを目的として毎年開催している「芸大・茨大・筑波大卒業修了制作選抜展」。
4月に開催を予定していた26回展は、新型コロナウィルス感染症の拡大防止及び来場者の安全面の観点から、中止が決定いたしました。展覧会を楽しみにお待ちいただいた皆様にはご不便、ご迷惑をおかけいたしますことを心よりお詫び申し上げます。

今回出品を予定していた作品を、WEB展覧会としてご紹介させて頂きます。
実物から見える質感や筆致、対峙したときの迫力をお伝えできないのが残念ですが、大学での研究の集大成となる11名の力作をお楽しみ頂き、若手アーティストのこれからの活躍を応援頂ければ幸いです。

※今回は3月に開催予定だった茨城大学卒展が中止となったため、茨城大学からの出品作品はありません。

作品をクリックすると、詳細が表示されます。

眠れぬ子守唄

清野 じゅん(芸大・日本画)

和紙、岩絵具、水干、胡粉

H181.8×W227.3cm

「記憶をテーマに描こうと考えたところ、私にとって五感が強く結びついている記憶は物語だと考えました。五感で感じた記憶と言っても、本に登場するものを実際に触れたり食べたりすることはできませんが、読んでいる時は想像でそれらを感じる、それは感覚的な記憶にとても近いと思います。そこで記憶に残っている一冊として、小学生の頃に読んだお気に入りの本について描きました。」

図鑑

正宗 美佳(芸大・日本画)

和紙、岩絵具

H162.1×W227.3cm

「図鑑を小さい男の子と一緒に読んでいる時に、その子が学んだ様々な知識や疑問を私に嬉しそうに話してくれた事が印象深く、作品にしました。“好奇心で人の内にある世界はいくらでも広げられる”という言葉と昔から動物や人を描く事が好きだったので、それらを組み合わせながら制作しました。自分の力不足故の反省点は多い作品ですが、“好きな物”を学生生活最後に描く事が出来て良かったです。自分は何が好きで、どういう作品が作りたいのか掴む契機になりました。」

巨人の肩に立つ

坂井 沙紀(筑波大・日本画)

紙本着彩、高知麻紙、岩絵具

H162.1×W227.3cm

「“巨人の肩に立つ”とは、ヨーロッパの古い成句です。現代の学問における発見は、先人たちの偉業の上に成り立っているものであるから決して自分1人の力によって成したものではない、ということを意味しています。

私は、博物館とはその精神を体現している場所だと考えています。現在までの人類の発見を共有し、後世に伝えていく場所だと言えるでしょう。この作品は展示を見学する若い2人の学生がモチーフになっています。過去を表す展示物と現在を表す学生たちを鮮やかに対比するために、彩度や明度に大きく差をつけて強いコントラストを作りました。足下の非常灯には金属箔をおして、画面全体に質感のリズムをつけることを意図しています。大きな画面なので、個々のモチーフの描写だけでなく、全体の構成に非常に気を使った作品です。」

エピソード記憶

太田 琴乃(筑波大・洋画)

アクリル、岩絵具、顔料、キャンバス、布

H231.3×W367.6cm

「この作品は、記憶を引き出した時や喜怒哀楽を感じた時に脳内を駆け巡る一瞬の情景を描いたものである。私は人体の神秘に興味を持ち始めてから、主に脳内世界をモチーフに扱った制作を続けており、その計り知れない世界をどのように表現するかを模索している。何万本もある神経の密林を描き分けて進んでいくイメージを持ちながら制作しているが、今まで体験してきた出来事や覚えてきた情報、匂いや音や色などの五感の情報で満ちているその密林の中に蓄積された記憶を感じさせるような表現を試みている。」

ゆかし

大友 ゆりか(筑波大・日本画)

高知麻紙、胡粉、墨、水干絵具、岩絵具

H194×W348cm

「私は、日本画における線や色合いの美しさに惹かれています。特に着物を着た女性像は、流れるような曲線、美しい色合いを生かすのに最適な画題だと感じます。友人にモデルを頼み、振袖のかたちや仕草、私自身の内面を重ね合わせ描きました。画面右側には萩の花を配置し、私の故郷への思いを込めました。あたたかく柔らかい雰囲気を大切にしたかったため、胡粉を中心に色を作りました。日本画の画材のそのものが持っている色を生かし、私が心地よいと感じる世界を表現しました。」

現在地の確認

大迫 璃子(筑波大・洋画)

アクリル、油彩、ミクストメディア、木製パネル

H162×W97cm×3点組

「『私のルーツとはなんだ?』この制作をしているときにずっと頭にあった言葉である。修了研究では、故郷である鹿児島県の桜島から噴出された火山灰を取り入れた絵画の制作を研究していた。私自身はいま関東に住んでいるのに、なぜいま火山灰を取り入れようと思ったのか。それは、自身のルーツが鹿児島にあるからだと思う。研究を始めたときは、確かにそう思っていた。しかし、果たして、鹿児島だけが自己のルーツなのだろうか。目に入り、移りゆく全てのものが、自身のルーツになっているのではないか。繰り返し見た馴染みの景色、一度しか行ったことのない、でもかけがえのない場所。それは、直接体験したものに限らないかもしれない。作品『現在地の確認』は、そんな自己の在る場所を確かめるために、断片的な景色を切り貼りした構成となっている。」

舞々

時田 早苗(芸大・漆芸)

漆、麻布、発泡スチロール、欅、卵殻、貝、金、銀、青金

H70×W45×D120cm

「漆芸品というと漆黒の色のイメージや、厳かな印象があると思います。そこで、今回の作品制作では、子どもでも親しみやすい漆芸品を作りたいと思い、漆芸の技法を使いながら、柔らかい印象になるように心がけました。また、ずっと惹かれていた木工芸も少し取り入れて制作しています。モチーフのシロクマは、私が幼少期に大きな背中に乗ってみたいと思っていた動物であり、その悠々と歩く姿に今でも惹かれています。そのシロクマのイメージに合わせて、下の木材を削り出し、模様の厚貝を嵌め込んでいます。シロクマの白い色は、卵の殻を貼り、漆を上に塗り重ね、研ぎ出していく「卵殻」という技法で、全体を卵の殻で敷き詰めて白を表現しました。漆の魅力で特に感じるところは「手触り」だと思います。触れた時にシットリと肌馴染みがよく、優しい素材です。その特色をこれからも表現していきたいと思います。」

岸水寄せる

竹野 優美(芸大・彫刻)

樟、金箔、写真、パネル

彫刻/H155×W100×D60cm

写真/H250×W160cm

「振り返ると学部4年間はお年寄りを題材に制作することが多く、きっかけは高校生のときに写真家 梅佳代さんの写真集『じいちゃんさま』を読んだことです。自分の祖父が長生きしてほしいという思いを込めて撮影したというのに感銘を受けて、私も高校から祖母をモデルに彫刻をつくるようになりました。大学4年になり、卒業制作でも今年で96歳になる祖母をモデルに彫刻を制作し、写真と組み合わせて情景表現をしました。背景の写真は、祖母の故郷・山形県庄内町の海です。毎年祖母とふたりで神奈川県から山形県まで里帰りをするのが恒例で、昨年も山形へ一緒に行き、海岸で撮影しました。まだまだ祖母が元気でいてくれることは本当に嬉しい限りです。」

インタビュー記事「とびらプロジェクト」

思い

本多 史弥(筑波大・彫刻)

テラコッタ、木

H175×67×105cm

「空を仰ぎながら思いを巡らす女性像です。テラコッタがもつ熱量を生かして人体の暖かみを表現したく思い、制作しました。私は、テラコッタという素材に他の素材とは違う良さがあると感じます。乾燥や焼成によって変化が生じてしまい、自分の思い描いた形や大きさの作品に制作できないという不便な一面もありますが、その時に生じる偶然性も作品に取り込むことができることが、テラコッタという素材の長所でもあるでしょう。造形だけでなく、素材感にも注目していただだければと思います。」

臨 鄧石如隷書「世慮全消」屏風

黒松 愛華(筑波大・書)

紙本墨書

H120×W240cm

「本作品は、清代中期の書家である鄧石如(1743-1805)の作品を臨書したものです。臨書とは、古典(古人の優れた筆跡)を見て書くことをいい、古典を学ぶこと通して書芸術の根源を探り、自身の書を創造することを目的としています。この鄧石如の作品は、見源という禅僧に送ったとされる作品で、現在は国家一級文物に指定され、安徽省博物館に所蔵されています。この書を鑑賞するポイントとしては、墨の色やかすれ、文字の迫力や大胆さに加え、一字または作品全体でバランスをとるように計算された構築性の高さに着目し、鑑賞していただきたいです。」

潘尼詩「贈河陽」

春田賢次朗(筑波大・書)

紙本墨書

H320×W80cm

「この作品は、中国の戦国時代(紀元前403-紀元前221)の頃の古代文字を用いて制作しました。これは文字なのか?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。私たちに最も馴染みのある楷書は、中国の後漢(25-220)末期あたりに成立したとされています。当時の人々にとっては、私たちにとっての楷書のような親しみのある文字であったに違いありません。詩文は、潘尼が河陽県令(今でいう市長)となり、転勤の不安を抱えた叔父の潘岳を鼓舞するといった内容です。丸みを帯びた可愛らしい文字の造形に惹かれ、転勤する潘岳を卒業した仲間に重ねて制作しました。」